元カノ
「持ってる……」
「え?どこにあるの?」
「俺のキャリーバッグの中に包んである」
「そう、あったのね……」
途端に美沙子の表情が歪んで、頬を一筋の涙がこぼれ落ちた。
「ずっと、逢いたかったの。でもあたしは仙台の親戚の家に預けられたわ」
「そうだったのか……」
「もう戻ってこれないと思ってたわ。でもね母は二週間前に亡くなったのよ。朝倉はあたしが継ぐことにしたわ」
何も言葉が見つからなかった。
「あなた……ちっとも変わってないわ」
美沙子は寂しそうに薄く笑って 震える指先を俺の右手に絡ませた
ほつれた髪をかきあげる 右の頬にえくぼができた
それを俺は覚えていた
(続く)
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