yuurakusai2のブログ

手間をかけない小さな庭の物語(クリスマスローズ、雪割草、ハーブ等、小さな庭に自生している花々を投稿していきます♪)

大切なもの

「事情がありまして、今夜で辞めさせていただきます」


 俺は軽く頭を下げて告げた。


「うん、分かってる」


  主人は女将から大体の事は聞いているのだろう。黙って封筒を差し出した。
 今月分の給料だろう。


「有難うございます。お世話になりました」
 頭を下げて旅館を出た。


 湯本駅に向かった。電車で平まで行こうと考えていた。


 平までは二区間の距離である。今夜は会長の自宅を訪ねて一晩泊めてもらおうと思った。



 「そういや長靴のままだったな」


  苦笑しながら湯本の駅舎へ着くと最終便まで三十分もある。


  誰も居ない凍てつくような駅舎でベンチに腰掛けると、ぼんやりとしていた。



 ……何だか、とても大切なものを忘れてきたような気がした。







 (続く)