パンドラの箱
「いつものモエ・シャンドンですか?」
美月は俺の傍らに座ると微笑んだ。
ふわりと漂う甘い香りが心地よい。
「今夜はライフログにしようかな」
「あら、珍しいですね」
美月は一瞬驚いた表情をしたが、直ぐにロックグラスに注ぎ入れた。
「ライフログはね、塩っぽくてドライという強烈な個性があるんだ。 惚れ込むか、大嫌いになるかのどちらかと言われている。見方を変えれば
誰もが好きになる とも言えるかな……まるで、美月のようにね」
「えっ?それって褒めてくれてるのですか?」
「まぁ、褒めてるっていうか、口説いてるのかな」
「お上手ですね、遊楽さん」
「さて、美月の話を聞こうかな」
「あ、はい。でも私の暗い話ですよ、いいんですか?」
「いいよ、どんなに暗くても」
彼女は、ゆっくりとパンドラの箱を開けた。
私は、親の愛情のおかげで傷一つつかず社会に出れた。
当時「発達障害」という病名が浸透していなくて
簡単なことが出来ず、ほんの数分前のことも忘れしまう。
当時はひどかった上司の下ネタにも耐え灘く、会社を辞めた。
それから簡単なアルバイトを転々とするうちに
自分は惨めだ、転落したと思うようになった。
3年後の夏の朝通りすがりの男性に侵され
それからすぐに出会ったホスト上がりのチンピラに
「似ているね」とついていった。
(続く)
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