薄幸女子、亜弥
「この子が、新しく入りたい子なの」
真梨恵の傍らに座っている薄幸そうなオーラを纏った色白の女性は、すっと頭を下げた。
伏目がちの瞳は、透き通る様なすみれ色だ。 ふっと雛子を思い出して、思わず胸が高鳴った。
「亜弥と申します」
「はじめまして、遊楽です。亜弥さんが「樹々」から移動してきた理由を聞いてもいいですか?」
「はい、実は「樹々」の常連さんにつきまとわれて困ってるんです。それで店を替えたくて真梨恵ママに相談したらうちに来なさいと言ってもらえて……」
「なるほど、そうでしたか。んじゃ真梨恵も事情を分かってるのならいいんじゃないですか」
「というと、私をここで雇っていただけると言う事でしょうか?」
「はい、亜弥さん、よろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
亜弥は、以外にも愛くるしい笑顔を魅せてくれた。
「じゃ、亜弥ちゃん。遊楽さんと話してて、私は接客に戻るから」
「はい、有難うございました」
彼女は、何故か頬を紅潮させて俺に水割りを作り始めた。
「あのぉ、遊楽さんは独身なんですか?」
「あっ、俺?独身だしバツもないよ。それに童貞だし……」
「えっ? ふふっ、面白いひとですね」
「いやぁ、ほんとの事だし、おっちょこちょいのお人好しって真梨恵にいつも言われてるよ」
「でも遊楽さんは真梨恵さんの彼氏さんでしょう?」
「いやぁ、それが違うんだなぁ、真梨恵にはれっきとした恋人がいるし、俺は彼女いない歴50年さ」
「ほんとですか?私、信じてしまいますよ」
亜弥は小首を傾げて妖艶な笑みを浮かべた。
「ほんとさ、信じていいよ」
「じゃ、私にも脈ありですね……」
亜弥は、俯いて小さな声で呟いていた。
(fin)
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