yuurakusai2のブログ

手間をかけない小さな庭の物語(クリスマスローズ、雪割草、ハーブ等、小さな庭に自生している花々を投稿していきます♪)

恋のトライアングル(完結)

 雛子の部屋を出ると、
                                        静かな宵闇の重く湿った空に、どこかの汽笛が聞こえてきた。


 ふぅ、なんか重いな。自分の気持だけじゃない、雛子の想いが……。


 彼女と過ごした後悔はない、しかしこのもやもやとした気持は何だろう。


 たぶん、花子と雛子を同時に愛する事の難しさだろうと思う。それは罪悪感を伴った痛みとして心の奥底を刺されるようだ。


 沈み込んだ気持を引きずって部屋のロックを解除して、靴を脱ぐと、
パタパタとスリッパの音がして、リビングの扉が開く。


「おかえり~!」


 煌めく黒髪を靡かせて、俺の胸に飛び込んでくるエプロン姿のクリロー花子。


透き通る様なすみれ色の瞳が俺を見上げている。甘い香りに全身が包み込まれていく。愛くるしい笑顔がやけに眩しい……。


「……ただいま」
 俺は沈み込んだ気持を振り払うように笑顔を作った。


「ねぇ、遅かったのね。本屋さん?」
 花子の無邪気な眼差しは俺の胸を抉るようだ。


「あぁ、ちょっと欲しい本があってね。探し回っちゃったよ」


「そうだったのね、居ないから心配しちゃった」
 彼女は身体をぶつけるように俺に抱きついた。


「ごめん、さぁ夕飯にしよか」


「うん、もう出来てるわよ。今夜はあなたの好きなマグアンプよ」


「そうか、ありがとう。直ぐにいただこうかな」


 俺は花子を抱きしめながら、気持のざわつきを止められないでいた……。


(fin)