恋のトライアングル(完結)
雛子の部屋を出ると、
静かな宵闇の重く湿った空に、どこかの汽笛が聞こえてきた。
ふぅ、なんか重いな。自分の気持だけじゃない、雛子の想いが……。
彼女と過ごした後悔はない、しかしこのもやもやとした気持は何だろう。
たぶん、花子と雛子を同時に愛する事の難しさだろうと思う。それは罪悪感を伴った痛みとして心の奥底を刺されるようだ。
沈み込んだ気持を引きずって部屋のロックを解除して、靴を脱ぐと、
パタパタとスリッパの音がして、リビングの扉が開く。
「おかえり~!」
煌めく黒髪を靡かせて、俺の胸に飛び込んでくるエプロン姿のクリロー花子。
透き通る様なすみれ色の瞳が俺を見上げている。甘い香りに全身が包み込まれていく。愛くるしい笑顔がやけに眩しい……。
「……ただいま」
俺は沈み込んだ気持を振り払うように笑顔を作った。
「ねぇ、遅かったのね。本屋さん?」
花子の無邪気な眼差しは俺の胸を抉るようだ。
「あぁ、ちょっと欲しい本があってね。探し回っちゃったよ」
「そうだったのね、居ないから心配しちゃった」
彼女は身体をぶつけるように俺に抱きついた。
「ごめん、さぁ夕飯にしよか」
「うん、もう出来てるわよ。今夜はあなたの好きなマグアンプよ」
「そうか、ありがとう。直ぐにいただこうかな」
俺は花子を抱きしめながら、気持のざわつきを止められないでいた……。
(fin)
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