お決まりのコース?
三越日本橋本店で雛子の買い物に付き合っていると、 殆どのすれ違う人達が彼女を振り返って見ているようだった。
確かに雛子は容姿端麗、どこぞのお嬢様か、はたまたモデルなのかと思うのだろう。 園芸店「マルシェ」では黒縁の眼鏡をかけて田舎の娘さん風だが、休日にはコンタクトにしている。
「あなた~、これ私に似合うと思います?」
雛子はローラアシュレイのワンピースを身体に当てて、俺を見つめている。
「ちょっ、ちょっと雛子、そんな大声であなたなんて呼ぶなよ。なんか勘違いされるじゃないかよ」
この売り場に来てから、数人の店員がチラチラと俺達を見てる気がする。 年齢差のあるカップルを彼女達にどの様な想像をさせてしまうのか、俺はなんとなくわかる。
「ふふっ、どんなふうに勘違いされるんですか?」
彼女は俺を上目遣いに見つめて、あざとい表情を浮かべている。
「いや、そのだな……とにかくあなたは止めて遊楽と呼んでくれよ」
「まぁいいですよ、そのかわり私を雛ちゃんと呼んでくださいね。いいですか?」
むぅと頬を膨らませて彼女に睨まれた。
「うおっ……、って、わかったよ」
くぅぅ、これは嵌められたのかも知れないな……
雛子は上機嫌で俺の腕に絡まって歩いている。
「こんなに買ってもらっていいんですか~」
「あぁ、いつも、……じゃなかった雛ちゃんにはお世話になってるからな」
「へへっ、そう言ってもらえると何だか嬉しいです」
雛子は、にへらと笑うと何故か頬を紅潮させて身を寄せてくる。
近い、近すぎるだろって……、濃厚な彼女の甘い香りに浸されてしまうようだ。
彼女は「マルシェ」では有能な園芸家ぶりを発揮するが、今日はどうやらポンコツ化してるような気がする……。
(続く)
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