yuurakusai2のブログ

手間をかけない小さな庭の物語(クリスマスローズ、雪割草、ハーブ等、小さな庭に自生している花々を投稿していきます♪)

薄幸女子、亜弥

「この子が、新しく入りたい子なの」


 真梨恵の傍らに座っている薄幸そうなオーラを纏った色白の女性は、すっと頭を下げた。


 伏目がちの瞳は、透き通る様なすみれ色だ。                   ふっと雛子を思い出して、思わず胸が高鳴った。



「亜弥と申します」


「はじめまして、遊楽です。亜弥さんが「樹々」から移動してきた理由を聞いてもいいですか?」


「はい、実は「樹々」の常連さんにつきまとわれて困ってるんです。それで店を替えたくて真梨恵ママに相談したらうちに来なさいと言ってもらえて……」



「なるほど、そうでしたか。んじゃ真梨恵も事情を分かってるのならいいんじゃないですか」



「というと、私をここで雇っていただけると言う事でしょうか?」



「はい、亜弥さん、よろしくお願いします」



「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
 亜弥は、以外にも愛くるしい笑顔を魅せてくれた。



「じゃ、亜弥ちゃん。遊楽さんと話してて、私は接客に戻るから」



「はい、有難うございました」
 彼女は、何故か頬を紅潮させて俺に水割りを作り始めた。



「あのぉ、遊楽さんは独身なんですか?」



「あっ、俺?独身だしバツもないよ。それに童貞だし……」



「えっ? ふふっ、面白いひとですね」



「いやぁ、ほんとの事だし、おっちょこちょいのお人好しって真梨恵にいつも言われてるよ」



「でも遊楽さんは真梨恵さんの彼氏さんでしょう?」



「いやぁ、それが違うんだなぁ、真梨恵にはれっきとした恋人がいるし、俺は彼女いない歴50年さ」



「ほんとですか?私、信じてしまいますよ」
 亜弥は小首を傾げて妖艶な笑みを浮かべた。


「ほんとさ、信じていいよ」



「じゃ、私にも脈ありですね……」
 亜弥は、俯いて小さな声で呟いていた。


(fin)

真梨恵の店

 俺は、週に二回程のペースで「樹々」に通っていた。


    少しずつ真梨恵とはプライベートな話もする様になって、彼女が独立して店を持ちたいと相談してきたのだった。


 当時、真梨恵は二十五歳。                           店を開くには若いような気もしたが俺は開店資金を出して店をやらせる事にした。


 店舗選びや内装等は彼女に任せ、俺は資金だけ融通したのだった。


 クラブ「マリエ」は開店から現在に至るまで右肩上がりで黒字を叩き出している。  店で雇っているホステスも六人になってクラブとしては中堅クラスの評価を受けている。


「遊楽さん、まさか……あのひとが以前の恋人だったの?」
 花子は、今にも涙が溢れんばかりの深刻な表情をしている。


「んなわけ無いだろって。俺は資金を出して名目上のオーナーになってるだけだ」


 彼女は、俺の胸に頭を押し付けて安堵した表情をしている。俺は髪を優しく撫でて彼女の機嫌が治るのを待つ……。


「よかったぁ。遊楽さんはあたしだけだよね?」


「あぁ、もちろんさ」
 クリロー花子の煌めくような笑顔が戻ってきた様だ……。


(続く)

「樹々」

「どうして?遊楽さんがあの人の店の面接なんかしなくちゃならないの?       おかしいでしょう?」


「う~ん、それはな……」


 俺は真梨恵との出会いから話すことにした。


 真梨恵は千葉県最東端の銚子市で両親、弟二人の五人家族で暮らしていた。

                                         銚子は古くから港町として栄え、日本一の水揚げ量である特定第3種漁港の銚子漁港を有している。


 彼女が十六歳の時に、父親は漁船の転覆事故で亡くなり、             病弱な母親が銚子漁港にある水産物加工会社で働き始めたが暮らし向きは楽にはならなかった。


 真梨恵は家計を助けるために、高校を中退して昼はファーストフード店で働き、夜は地元のスナックで働いていた。


 給料の良いスナックを転々としてるうちに、銀座のクラブ「樹々」でホステスをする様になった。



 クラブ「樹々」では見た目が美しいだけでは駄目で、教養と話術に長けていなければ人気ホステスにはなれない。


 当初、真梨恵は人気ホステスのヘルプをして、お客の飲み物を作ったり灰皿やおしぼりの交換等をしていた。


 そんな時に真梨恵は俺と出会ったのだった。



 俺は、真摯な態度で接客する真梨恵を気に入った。                得意先との商談には、必ず「樹々」に行き真梨恵を指名していた。
                                        そして彼女が「樹々」で働き始めて三年が過ぎる頃には指名率ナンバーワンの人気ホステスになっていた。


(続く)