yuurakusai2のブログ

手間をかけない小さな庭の物語(クリスマスローズ、雪割草、ハーブ等、小さな庭に自生している花々を投稿していきます♪)

パンドラの箱

「いつものモエ・シャンドンですか?」


 美月は俺の傍らに座ると微笑んだ。


ふわりと漂う甘い香りが心地よい。


「今夜はライフログにしようかな」


「あら、珍しいですね」

 美月は一瞬驚いた表情をしたが、直ぐにロックグラスに注ぎ入れた。


「ライフログはね、塩っぽくてドライという強烈な個性があるんだ。         惚れ込むか、大嫌いになるかのどちらかと言われている。見方を変えれば
 誰もが好きになる とも言えるかな……まるで、美月のようにね」


「えっ?それって褒めてくれてるのですか?」


「まぁ、褒めてるっていうか、口説いてるのかな」


「お上手ですね、遊楽さん」



「さて、美月の話を聞こうかな」


「あ、はい。でも私の暗い話ですよ、いいんですか?」


「いいよ、どんなに暗くても」




 彼女は、ゆっくりとパンドラの箱を開けた。



私は、親の愛情のおかげで傷一つつかず社会に出れた。


当時「発達障害」という病名が浸透していなくて


簡単なことが出来ず、ほんの数分前のことも忘れしまう。


当時はひどかった上司の下ネタにも耐え灘く、会社を辞めた。





それから簡単なアルバイトを転々とするうちに


自分は惨めだ、転落したと思うようになった。


3年後の夏の朝通りすがりの男性に侵され


それからすぐに出会ったホスト上がりのチンピラに


「似ているね」とついていった。




(続く)

Side:美月

 静かな雨音が聞こえる。


少し開いてる窓から、するりと微風が入り込んで頬を撫でていった。


薄っすらと瞼を開けると、いつもの因幡杉で貼られた天井が見える。


 とても切ない夢をみていた気がするけれど、思い出せないのがもどかしい。
でもあのひとの笑顔だけが何故か記憶に残っている。


 この部屋はどこか空気が澱んでいた。決して物が散乱しているとかじゃない。
むしろ部屋は綺麗に保っているし、物をあまり置いていない。


 私の内側から滲み出てくる鬱屈したものが、部屋の空気を澱ませているのだろう。


「どこもかしこもぼろぼろじゃねえか」


 あのひとは寝ながら私を抱き寄せた。
その腕は私をしっかり掴んで、それは何度もあると無邪気に思い込んだ。



さよなら 初めて愛したあなた


あなたのくれた抱擁や彼女という呼び名


  忘れない 月の光に照らされ あなたを失う涙に濡れた夜







(続く)

閑話休題、美しすぎる新人

「あの子が新しく入ったのよ」


「ほぅ、なかなかの美人さんじゃないか」

「そうね、もう指名客がついてるわ」


 久しぶりに、俺はクラブ「マリエ」で飲んでいた。
仕事納めという事もあり、店内はかなり賑わって、ホステス達が忙しそうだ。



「凄いな、んじゃ彼女、何か惹きつけるものを持ってるってこと?」


「たぶん、彼女の纏うオーラに惹きつけられているのかしらね」


「オーラねぇ、俺には感じられんけど?」


「あなたは鈍感だから仕方ないわ」


 真梨恵は含み笑いをしながら、奥のボックス席で接客中の女性を呼びに行った。




「美月ちゃん、こちらが遊楽さん。かなりの遊び人」


「おい、おい、そりゃ無いだろって」


「じゃ、遊び人じゃなかったらなんなのかしらね」


「苦労人とか真面目人とか、童貞人とか……ってあるだろ……」



 紺色のスカートに淡いピンクのブラウスを着た女性が真梨恵の隣に立っていた。


  黒髪は肩にかかるぐらいで、小首を傾げた時にその黒髪がさらさらっとなびく。


 彼女は両手を前に揃えると、すっと頭を下げた。



「はじめまして、美月です」


 肩から煌めく黒髪が、さらりと流れ落ちた。


(続く)