「樹々」
「どうして?遊楽さんがあの人の店の面接なんかしなくちゃならないの? おかしいでしょう?」
「う~ん、それはな……」
俺は真梨恵との出会いから話すことにした。
真梨恵は千葉県最東端の銚子市で両親、弟二人の五人家族で暮らしていた。
銚子は古くから港町として栄え、日本一の水揚げ量である特定第3種漁港の銚子漁港を有している。
彼女が十六歳の時に、父親は漁船の転覆事故で亡くなり、 病弱な母親が銚子漁港にある水産物加工会社で働き始めたが暮らし向きは楽にはならなかった。
真梨恵は家計を助けるために、高校を中退して昼はファーストフード店で働き、夜は地元のスナックで働いていた。
給料の良いスナックを転々としてるうちに、銀座のクラブ「樹々」でホステスをする様になった。
クラブ「樹々」では見た目が美しいだけでは駄目で、教養と話術に長けていなければ人気ホステスにはなれない。
当初、真梨恵は人気ホステスのヘルプをして、お客の飲み物を作ったり灰皿やおしぼりの交換等をしていた。
そんな時に真梨恵は俺と出会ったのだった。
俺は、真摯な態度で接客する真梨恵を気に入った。 得意先との商談には、必ず「樹々」に行き真梨恵を指名していた。
そして彼女が「樹々」で働き始めて三年が過ぎる頃には指名率ナンバーワンの人気ホステスになっていた。
(続く)
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